戦略とは、戦を略するための最上の策なり

上忍とは 音もなく 臭いもなく 智名もなく 勇名もなし  その功 天地造化の如し(万川集海)

忍務」*とは主無駄な戦を減らすために有益な情報を得ることでした。他には武将や有力者の命を陰ながら助けたり、効果的に働くことで戦の規模を小さく済ませるなど、「存続」のための選択肢を増やすことでした。そのことは戦が長く続く時代に於いて、兵力や兵糧の損失、また現場やその土地の混乱を回避することに、間違いなくつながったでしょう

 孫子は「百戦百勝は、善の善なるものに非(あら)ざるなり」(百回戦って百回勝ったとしても、それは最上の勝ち方とは言えない。戦わずに敵を屈服させることこそ最上の勝利なのである。)と言っています。無駄に戦わずに勝つための最大の武器が、有益な情報だったのです。かの時代に情報を取捨選択するためには、土地を熟知し、四方八方で様々な人と交わり、そして時流を読む力が不可欠だったと想像できます。これらの働きが重要な戦略につながると知っていたからこそ、忍者は精緻な情報収集に地道に徹し続けることができたのでしょう。

 

忍者はそうして忍務*を果たした後も、決して意気揚々と表出ることはありません。彼らが働く目的は、その功績を披露して権力を手に入れること土地を得ることはなかったからです

 サブタイトルの、「上忍とは 音もなく 臭いもなく 智名もなく勇名もなし その功 天地造化の如し」とは、優れた忍者(上忍)をたとえて言われた言葉です。気の遠くなるような時間をかけて太古の昔から自然が創造されてきたかのように、忍者の働きというものも、その存在を周囲から際立たせず、後世に名を残すこともせず、あまりに地味でさり気ないので人の仕業に見えず、時の流れによる自然の成り行きのように見えるものだということです。

 

戦いを避けられない時代の中で、家族や地域の安寧をで働いた忍者。彼らの優れた能力をもってすれば成り上がっていくこともできたでしょうが、それをすることで様々な軋轢が生まれるのは必定そのために故郷や身内が傷つくぐらいなら、名を残すことなく黙々と忍務をこなし、細く長く生き続けていく。そのことが彼らの選んだ生き方であり、忍者として生きることこそ彼らの生き残るための「戦略」だったのかもしれません。

*「忍務」とはNINJA FORESTの造語で、忍びの果たす務め、という意味です